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マカオ発 カジノ帝王の死 [カジノの気になるワダイ]

人の死は飽くまでも個人的なものである。だが個人的である死が、時として彼を育み、生きた社会環境、つまり一つの時代の終焉を暗喩することもあるだろう。


 2020年5月26日、香港島のハッピーバレー(跑馬地)に在るサナトリウム・ホスピタル(養和医院)で98年の人生を閉じたスタンレー・ホー(何鴻燊)の死を、内外メディアは挙って「マカオの帝王の死」「マカオのカジノ王の死」と報じた。


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 だが一族の家系を遡り、波瀾の生涯を振り返るなら、やはり彼の死は「金の卵を産む鶏」を演じ続け、1世紀半を超える繁栄を謳歌してきた香港に黄昏が迫っていることを告げる晩鐘にも思えてくる。


 スタンレー・ホーは、上海のフランス租界の一角で中国共産党が結党された1921年、上海を遠く離れたイギリス殖民地の香港の超富豪一族に生まれた。共産党イデオロギーの対極にあった環境で生まれ育った彼だったが、その後半生を彩った華麗な企業家人生は不思議なことに共産党政権と歩調を合わせてこそ築かれたのである。


 祖父のホー・フック(何福)の兄に当たるサー・ロバート・ホートン(何東卿)は19世紀末から20世紀前半の英国殖民地行政を支え、“影の総督”として香港における政治・経済活動の全般に亘って圧倒的影響力を揮っていた。香港の超エリートとして、あるいは名誉英国民として、一族は殖民地香港に君臨し栄耀栄華を誇っていたのである。


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 中国にとっては「屈辱の近代の起点」でもあるアヘン戦争の結果、1842年にイギリスと清朝間で結ばれた南京条約によって清国から切り離された香港は、イギリス殖民地としての歩みを始めた。


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